2015年11月16日月曜日

大切なのは「公憤」、そして「お陰さん」。

最初のコラムに続けて、2回目のコラムもたくさんの方々が読んで下さっています。
皆様、本当にどうもありがとうございます。

やはり「公務員から起業すること」には高い関心が寄せられているのでしょうね。
もちろん全くの野次馬根性という読者の方もいらっしゃると思います。
しかし、中には切実な悩みとしてお読みになられている方も大勢いることでしょう。

そこで今回も、前回に引き続き、「今からすぐ出来る公務員企業の準備」について書きたいと思います。まずはウォーミング・アップとしてよく読んでみて下さい。

起業をする、となるとやれ「ビジネス・モデル」だの、「資金調達」だのと勧めてくる専門家がいます。
大学でも経営論の学者先生たちがまずそう教えるようです。

ちなみにビジネス・モデルといえばこれ、ですね。
かの名著「ビジネス・モデル・ジェネレーション(Business Model Generation)」に記されている図です。



私は数多くの企業で研修を行っており、この図をよく紹介します。
「まずは自分自身が勤めている会社のビジネス・モデルを確認してみましょう」というわけです。

経営者、しかも創業経営者でないかぎり、意外に意識しないのがこのフレームワークです。
しかし過不足なく自社のビジネス・モデルを知らないと困ることがあります。
それは経営状況が悪くなりかけて、一生懸命に皆で「次の一手」を探す時のことです。

このフレームワークどおりに自社の状況を埋めていけば、「要するにウチの会社がやっていることはこれでしょ」という図が出来上がります。
あとはその図に基づきながら、「ここが弱そうだから、ここに梃子入れしよう」とか考えれば良いわけです。実に便利なものです。

しかし、実のところ「起業」の際、こんなビジネス・モデルは一切不要なのです。
なぜならば前回も書きましたが「よく分からないけれども、俺・私がやらなければどうする」とわけもわからずにとにかく突っ込むのが起業だからです

「売り物」も「売り方」も全く分かりません。
それでも突っ走る。
それが起業(アントレプレナーシップ)の実態なのです。

したがってビジネス・モデルをこのフレームワークにしたがって書くのは、こと起業においては「二の次」だということをよく覚えておいてください。
まずはやってみること。
それを心掛けましょう。

実はそんなことよりも、公務員から起業するにあたって、あらかじめどうしても行っておくべきことが一つあるのです。
何だと思いますか?

それは皆さんの心の中にある「公憤」の確認です。
「義憤」といってもよいかもしれません。

公務員が娑婆に飛び出して起業したとします。
すると、周囲からは必ずこう尋ねられるのです。

「あなたはなぜ公務員の地位を捨てたのですか?」

もう本当に「これでもか、これでもか」というほど聴かれます。
私は外務省を自主退職してから最初の2年間ほどは3日に1回はマスメディアの取材を受け、テレビ・ラジオに出演していました。
その度にこのことについて聴かれたのです。
正直・・・うんざりします。

ところが起業するとなると、これが肝心かなめなのです。
どうしてでしょうか。

考えてもみてください。
あなたはなぜ、最初に就職する際、民間企業ではなく公務員の道を選んだのですか?

単にお金のためですか?
それとも地位のためですか?
・・・違いますよね。

公務員の道を選ぶのは、どうひっくり返っても社会の一部に過ぎない「民間の世界」には絶対に存在しない”公(おおやけ)”を憧れたからに違いありません。
カタい言葉をつかうならば「公益」とでもいうべきでしょうか。

それでは「公益」、あるいは「国益」とは何なのでしょうか。
私は外務省で「法令班長」を務めていました。
その時に学んだこと、書きましょうか?

国益とはズバリ、「国民の生命と財産」です。
そしてこれを守り、増進していうことこそ、公務員の使命(ミッション)なのです。
読者の皆さん、御存じでしたか?

しかし、公務員生活を送っていると必ずある段階で現実とこの使命との間に横たわる大きなギャップに気付かざるを得ません。
「何で”公”ではなく、”私”にこの幹部は拘っているのか?」
「この政治家は”公”、すなわち全体の利益とは相反した要求をしているのではないか?」
「公益を促進するためにはこの政策が必要なのに、なぜ認められないのか?」

そこで感じる、やり場のない怒り。
それが・・・「公憤」「義憤」なのです。

これをまず確認してください。
そして「公憤」「義憤」を感じていないのだとすれば、その段階で起業は諦めて下さい。

逆に「公憤」「義憤」が溢れて仕方がないという方。
オメデトウございます!!
あなたのその「公憤」「義憤」が続く限り、起業は成功し、やがて大輪の花を咲かせるはずです。

なぜか?
その理由は、民間企業の世界(”娑婆”)では、自分自身の心そのものと一体化するほどのミッション・ステートメントを創り上げることが全く不可能だからです。
企業経営者たちはあの手この手をつかって、自らが感じた使命(ミッション)を従業員たちに刷り込もうとしますが、ほとんどの場合、失敗します。
当事者意識を伝達することが出来ないのです。
なぜならば・・・民間経済における使命(ミッション)は所詮、カネ勘定だからです。

しかし公務員である皆さんは違います。
「公への奉仕」と「現実」の挟間で悩み続け、ついにはそこで感じる公憤・義憤に耐え切れなくなり、「それなら俺・私がやってやる」と組織を飛び出すこと。
その様な形で起業するからです。
そして多かれ少なかれ、そのことに理解を抱いてくれ、分かち合ってくれる人たちが一緒に企業組織を創り上げていってくれます。

だから「公憤」「義憤」があなたの胸の中に本当にあるかどうか。
これこそ、何を差し置いてもまずはチェックすべきだと私は想うわけです。

・・・
そしてもう一つ。
今日この瞬間から皆さんがすぐに出来ることを一つ教えて差し上げましょうか。

それは「お蔭さん」を知ること、です。
その気持ちを大切にすること、です。

私は外務省を自主退職して以来、原則として会食をする時、必ず私が支払うようにしています。
例えば相手が目上の裕福な方であるとか、あるいはどうしても状況が許さない時は別です。
そんな時は喜んでご招待を受けます。

しかしそんな時でも必ずすることがあるのです。
それは自分自身が探して、(時に忙しい中であっても)自分で買い求めた手土産を会食会場にまでお持ちすることです。

お土産を選ぶ時にはじっとまずは先様のことを考えます。
何がお好きなのか。
家族構成は?
先様を支えるスタッフの方々は男性か、女性か?
・・・などなど、イメージしながら「これだ」と思うものを奮発して買うわけです。

なぜか、分かりますか?
御馳走して頂いたらば、その場で「お蔭様」に心から感謝しながら、先様から賜ったご厚情に報いてしまうのです。
「宵越しの銭は云々」と昔からよく言いますが、「宵越しのお蔭様は握りしめ続けない」のです。
その場で報いてしまいます。

そうすると不思議と「そうか、ではまたお誘いしましょう」ということになります。
コミュニケーションが成立します。
暖かい人間関係が成立します。
当然、ビジネス・チャンスは一気に増すことになるのです。

人類学者たちがかつて導き出した結論。
それは「経済とは最初に贈与から始まった」という事実です。

ヒトはたくさんのものを先様からもらうと、ある一定の限界を超えた瞬間にどうしても「お返し」がしたくなるのです。
いわゆる「返報性の原理」です。

実のところ、ビジネスとはこの延長線上にあるものなのです。
逆に言うならば、「お蔭さん」に対して報いることがなければ、ビジネスは永遠に始まることがないのです。

ところが驚くべきことに公務員の皆さんは全くこれとは正反対のマインドセットを最初から刷り込まれているのです。
私は自主退職してからも、しばしば同僚や下僚であった人たちを誘って街に繰り出します。
そして毎回、私が御馳走するのです。

時に1人あたりの単価が数万円ということもあります。
それがその人のその瞬間にふさわしいと思えば私には何の躊躇いもないのです。

すると、びっくりしたことが何時も起こります。
翌日に彼・彼女らから御礼の電話やメールすらないのです。

「忙しいのかな、きっと」とこちらも我慢します。
しかし、1日経ち、2日経ち、3日経ち、そして1週間経っても何も言ってこないのです。

要するに「忙しい」というのですよね。
「国民からのニーズに応えるのに実に忙しくて、メールなど書けないし、電話なぞする暇があるわけがない」というわけです。

無論、公務員をそのまま続けるのならばそれでも良いでしょう。
これに対して「公務員起業」をしたいというのであれば、これでは絶対にダメです。

御礼の一言すら言えないならば、ビジネスの基本である「返報性の原理」を意のままに使うことが出来ないからです。
その結果、お客様となるべき先様をお客様にすることが出来ません。
起業はものの見事に失敗します。

公務員にとって「お客様」はすぐそこにあらかじめ存在しているもの、なのです。
つまりは「国民」です。

これに対して娑婆では全く違います。
そもそもお客様なぞ、存在しないのです。
お客様は創り上げるものであり、「顧客創造」こそ、ビジネスの基本なのです。

そのためにはどうすれば良いのか。
「お蔭さん」に心から感謝し、そのことを言葉として伝え、あるいはモノに託してお届けするのです。
簡単ですよね?
しかし・・・公務員マインドでは絶対に出来ないことでもあるのです。

いかがでしたでしょうか?

「公憤」あるいは「義憤」。
そして「お蔭さん」。

今日から実践してみてください。
その瞬間から・・・皆さんは憧れの「公務員起業」の世界に大きく一歩踏み出すことになるのです。

2015年11月16日 トルコ・アンタルヤにて
原田 武夫記す


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